9月3日、ウラジオストクの国立水族館開館式でロシアのプーチン大統領(中央)と握手する安倍晋三首相(C)AFP=時事

 9月2日のウラジオストクでの日露首脳会談で、プーチン・ロシア大統領の12月15日の来日が決まり、北方領土交渉は当面のクライマックスを迎える。ラブロフ外相は「訪日時に交渉の結論を提示したい」としており、ロシア側は解決案を示す見通しだ。安倍晋三首相は「新しいアプローチ」に沿って、対ロ経済支援の「8項目」構想を進める構えで、賭けに出たと言える。ロシアでは、日本がクリミア併合を承認する引き換えに「北方3島」を返還するとの提案も出ており、12月の山口会談が注目される。

安倍首相の「突出」

 ウラジオストクでは、対露経済協力に前のめりになる安倍首相の突出が目立った。東方経済フォーラムの講演で、極東開発、医療支援、中小企業育成など「8項目」協力を強調し、「(極東開発の)プーチン大統領の夢は私の夢だ」「日露の経済は競合関係になく、見事に補完する間柄だ。両国民が明るい未来を託せるようすべてやっていこう」と述べた。
 首相に同行した財界首脳らも、ヤマル半島への液化天然ガス(LNG)基地建設への融資、東芝によるロシア郵便システムの近代化協力、マツダ自動車のエンジン工場建設など大型案件の覚書に調印した。
 安倍首相が対露経済協力相を新設し、世耕弘成経済産業相に兼務させたことも異例だ。1980年代の「日中友好」時代、通産省や外務省が音頭を取って空前の援助や投資を狂ったように中国に注いだ時も「対中経済協力相」などなかった。
 これにはロシア側も驚いたようだ。独立新聞は「従来、日本はまず領土問題を解決し、その上で経済協力という原則だったが、今や、力点は経済協力に置かれた。その目的は、相互信頼の雰囲気を築き、それによって領土問題を解決させることにある」と書いた。コメルサント紙も「特定の国を対象にした閣僚が日本政府に置かれたことはなかった。日本にとって、米国や中国との貿易はロシアよりはるかに多いが、同様のポストはない。対露政策の真剣さの証明だ」と評価した。
 ただし、昨年の日露貿易は前年比で30%減少、今年上半期もさらに同36%減少しており、原油安などロシアの経済危機を受けて投資環境は悪化している。「8項目協力」の成功は民間が動くかどうかにかかっており、現状では日本企業も本格進出をためらうだろう。

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