おもしろまじめに取り組め

執筆者:成毛眞2016年9月15日

 “おもしろまじめ放送局”とは、1983年に日本テレビが展開したキャンペーンで、その“おもしろ”の代表として徳光和夫、“まじめ”の代表として小林完吾両アナウンサーがフィーチャーされていた。つまり、おもしろとまじめは対立する概念だったのだ。
 ところがそれから四半世紀ほどが過ぎた頃、サントリーがペプシでおもしろとまじめを共存させた。ペプシという、黒くて甘くてチリチリしていると相場が決まっている飲み物の型を、自ら崩し始めたのだ。2007年にはきゅうり味、2009年にはしそ味とあずき味を発売し、SNSの普及と相まって、大きな話題となった。
 2012年になると、ガリガリ君という氷菓子で知られる赤城乳業が、挑戦的な味のものを販売するようになった。ソーダ味が基本のガリガリ君に、コーンポタージュ味、シチュー味、ナポリタン味など、味の想像の付かない、だからこそ試してみたくなるものを投入したのだ。私は赤城乳業の術中に進んではまっていった。
 2016年にはカップ焼きそばのペヤングでおなじみのまるか食品が、セルフパロディとでもいうべきペヨングを発売した。ペヤングを真剣に真似たらどうなるかを、自社で試したのである。この試みはやはりSNSで絶賛され、2014年に起きた異物混入事件はまるでなかったことのように忘れ去られた。
 バルミューダという家電メーカーがある。心地よい風を生み出す扇風機、ふっくらサクッとしたトーストが焼けるトースターなどをまじめに作っている企業だ。しかし、もしもまじめなだけであれば、心地よい風やふっくらサクッとしたトーストへのこだわりよりも、無難な商品作りを優先させたに違いない。なぜなら、先行する大手家電メーカーがみな、その道を選んでいるからだ。小さなことに妥協しないその姿勢は、おもしろさと言い換えることができると私は思う。
 おもしろいことに、ただふざけるのではなくまじめに取り組む企業は支持される。それに気付いた企業はこぞって、おもしろまじめに取り組んでいる。客離れが話題になったマクドナルドが裏メニューなる、吉野家の牛丼におけるつゆだくのような選択肢を用意したのは、そこに気付いたからだろう。
 一方で、おもしろいだけ、またはまじめなだけの企業は相変わらず苦戦している。とりわけ、おもしろ寄りが期待されているのにも拘らずまじめに傾きすぎているものの代表例が、マンガである。私はマンガを読まないが、あれは娯楽だと思っている。読む人は、おもしろさやリラックスできる時間を求めて読むものだろう。ところが最近のマンガには、社会問題が色濃く反映されているものが少なくなく、読む前よりも読んだ後の方が暗い気分になることもあるかもしれない。これはマンガが自らの地位を上げようとしてまじめになりすぎたせいではないか。

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