第1回テレビ討論にあたり無策に過ぎたトランプ氏(左)と、周到だったクリントン氏 (c)AFP=時事

 

 問題発言に巨額の「節税」と劣勢の共和党ドナルド・トランプ候補(70)に対して、9月26日のテレビ討論以後は調子を取り戻した民主党ヒラリー・クリントン候補(68)。その舞台裏では、クリントン陣営が仕掛けた巧みな罠にトランプ候補がはまる、というすさまじい心理戦が展開されていた。

クリントン陣営の綿密な準備

 7月の両党党大会以後、クリントン氏がキープしていた大きいリードがメール問題などの再燃で約1カ月のうちに縮まり、9月初めには大接戦の様相を呈していた選挙戦。だが、その裏でクリントン陣営は、心理アナリストをチームに加え、邦題『トランプ自伝―不動産王にビジネスを学ぶ』(The Art of the Deal)の事実上の単独著者でジャーナリストのトニー・シュウォーツ氏らから助言を得るなど、テレビ討論に向けて綿密な準備を進めた。
 もちろんトランプ陣営も準備したが、候補者自身の姿勢は対照的だった。予備選での討論のやり方、強みと弱みを分析したトランプ氏のプロファイルを盛り込んだ膨大な「ブリーフィングブック」に基づき、長時間かけて練習を重ねたクリントン氏。これに対してトランプ氏は「準備をやり過ぎると危険だ。台本通りだと自分らしくない」などと記者団にうそぶいていたという。
 しかし過去の米大統領選では毎回「ブリーフィングブック」が重要な役割を演じている。これを基に、候補者は相手候補に似たタイプの人を仕立てて討論の練習をするからだ。
 1980年大統領選では現職カーター陣営のブリーフィングブックが盗まれてレーガン陣営に持ち込まれ、レーガン氏は討論でカーター氏を圧倒して、勝利した。この事件には情報機関の人物がかかわったといわれている。

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