北方領土返還で北海道はどう変わるか

執筆者:成毛眞2016年10月13日

 いつかシベリア鉄道に乗る予定でいる。以前本欄で書いた通り、本当ならロシアを横断してその間はずっと麻雀をして過ごしたかったのだが、ロシア語ができないとなかなか厳しいという話を聞き、距離をグッと縮めた。ウラジオストクまで飛行機で行き、観光して列車に乗り、ハバロフスクまで行って下車してやはり観光をし、そこから飛行機で戻る。季節は11月を選びたい。車窓に広がる白銀の世界をカメラに収めたいからだ。やはりシベリアといえば雪景色だが、真冬だと温帯に住む東京人には寒さが厳しすぎると聞いた。費用は10万円ほどなので、本欄で何度か書いてきたように、ビフォア・アフターのビフォアを見るには高くない投資だと思う。
 これからロシアは変わるし、そして北海道も変わる。私はそう見ている。
 私は北海道の出身なので、幼い頃から北方領土問題について学校で何度も教わってきた。その頃の論調は4島全島返還が前提で、それ以外は認められないという空気が色濃かった。少なくとも私自身には北海道人という自覚がなく、残っているのは幼少期のこういった教育の記憶くらいだ。もともと北海道は、本州などから移り住んだ人びとが切り開いた地なので、土地に愛着がないのかもしれない。
 それはさておき、北方領土である。今は、まずは色丹島と歯舞群島の2島を返してもらうという、2島先行返還論が存在感を増している。私もこれが現実的ではないかと思う。
 では、返還後どうなるか。おそらく現在、色丹島と歯舞群島に住んでいるロシア人は、そのまま居住が認められるだろう。このご時世、引き払って立ち退けという話にはならないはずだ。すると、彼らはロシア国籍を持ったまま日本の領土に暮らすという稀な権利を手に入れることになる。おそらくは日本本土との行き来は、ビザがなくてもできるようになるだろう。
 それは、彼らに日本を身近に感じさせることになる。中には、北海道本土へ渡り、札幌の時計台で記念撮影をし、クラーク博士と同じポーズでやはり記念撮影をし、旭山動物園へはバスで乗り付け、釧路へ出かけてカニを味わい、自分たちが捨てている蟹味噌が高額で取引されていることに驚愕する人も出てくるに違いない。
 すると、こういった観光客向けの商売が必ず出てくるはずだ。
 札幌ラーメンの名店のメニューには、ボルシチラーメンが加わるであろう。夏の札幌・大通り公園のビアガーデンにはウオッカがラインナップされるだろう。冬の稚内辺りではロシア帽が流行し、カップ焼きそば「やきそば弁当」にはロシア語の解説が加わり、スープカレーを具材にしたピロシキを売る店が誕生するだろう。店名はハラショーかスパシーバか。

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