音楽業界は廃れない

執筆者:成毛眞2016年10月27日

 音楽をCDプレーヤーで聞かなくなって久しい。アップルのiTunes Music Storeからパソコンにダウンロードした楽曲を、Wi‐Fiでステレオに飛ばして聞いていた頃ですら懐かしい。今ではスマホアプリのAmazon Music一択である。アーティストや曲名を指定することもない。ボサノバやジャズなどジャンルさえ指定すれば、延々とBGMを流してくれる。なにしろボサノバだけでもブルー・ボッサ、カフェ・ボッサなどの多様なサブジャンルが提供されているのだ。アップルが音楽の配信を始めたとき、ミュージシャンたちが「アルバム単位での作品作りがしにくくなった」と話していたが、今や、ジャンル分けしにくい音楽は埋没する時代になったのかもしれない。となると、音楽を作る側はもちろん、聞く側も変わっていくことになるだろう。
 それは過去を振り返っても明白だ。人々がテレビを見なくなり、そのテレビから歌番組が激減したことで、世代を超えて歌える歌がほとんどなくなった。1998年にサッカー日本代表がワールドカップに初出場したとき、その予選でサポーターたちが『翼をください』を大合唱したのも、学校で教わったその曲くらいしか、集った全世代が知っている歌がなかったからという説にも頷ける。
 だからといって、音楽が廃れたわけではない。10代、20代は、40代以上が知らないようなミュージシャンのライブに出かけて行っている。彼らがどこでその音楽に出会うかというと、YouTubeだ。誰もが見られるテレビではなく、人から教わってYouTubeで見てファンになり、ライブに出かけるのである。この欄をお読みの方は、森進一や森昌子のことはご存じだと思う。では、ワンオクロックについてはどうだろうか。元々ジャニーズ事務所に所属していた、天才的に歌のうまい青年がボーカルを務めているバンドである。彼らは基本的にテレビ出演をしないが、毎回、ライブにはかなりの人数を動員する。そのきっかけが、YouTubeなのだ。若者たちにとってそのボーカルが、森進一と森昌子の長男であることなど、些細なことに違いない。
 一方で、森進一・昌子世代やその少し下の世代も、音楽のために外へ出かけて行っている。夏に新潟・苗場で開かれるフジロックフェスティバルではそれなりに高い年齢層の観客が見られるというし、ビートルズのドキュメンタリー映画『エイト・デイズ・ア・ウィーク』が公開されて話題になり、『デヴィッド・ボウイ大回顧展』(2017年1月から4月・東京)、『ピンク・フロイド展』(2017年5月から10月・ロンドン)など、明らかにその世代に向けた催しも計画されている。この世代にとっても、音楽が外出のきっかけになっているのだ。そこでかつての音楽に再び触れることで、新しい音楽を聞いてみようと思うこともあるだろう。

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