2016年9月、日本鉱物科学会が、ヒスイ(硬玉翡翠)を「日本の石」に選定した。選ばれた理由は、広く日本で知られた美しい石で、鉱物科学、地球科学、その他の分野で世界的に重要な意味を持っていること、長い間日本人の生活にかかわりを持っていたことなどからだ。
 古代史を学ぶ者としては、とっくの昔に指定されていたと思い込んでいたので、かえって驚かされた。それほど、「日本人とヒスイのつながり」は強かった。
 ヒスイの最古の利用例は、大角地(おがくち)遺跡(新潟県糸魚川=いといがわ=市)でみつかった縄文前期の敲石(たたきいし)で、石器をつくるときのハンマーだった。その後、石を磨く技術が発達するとヒスイに孔をあけ、宝石として身に着けるようになっていく。これが人類最初のヒスイ加工だ。やがて縄文時代中期ごろから、三日月形の独特の造形が編み出されてくる。これが、いわゆる勾玉(まがたま)で、首飾りに用いた。
 日本各地でヒスイはみつかっているが、新潟県糸魚川市付近でとれる高品質のヒスイが珍重された。
 ヒスイは地味な緑色の宝石だが、光に透かしてみると、想像を絶する神々しさが現れる。古代人は、太陽や焚き火にかざして、神秘の光を堪能したのではなかろうか。

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