アメリカ次期大統領にドナルド・トランプが当選するという結果は誰も予測しなかったのではなく、誰も予測したくなかったというのが正しい。「アメリカがいなくなる世界」を誰も考えられなかったからだ。

 人は、予想しない事態に直面すると、パニックに陥る。世界には、テロがはびこり、日本の島は中国にとられる、日本はいよいよ核を含む自主防衛を本気でやらなければならない、といった議論が横行した。まるで、世界の終わりを迎えるような危機感がみなぎった。

パニックの心理

 一方、トランプの勝利演説が、選挙中のキャンペーンと打って変わって「まとも」であったことから、今度は、トランプの過激な言動は選挙向けのレトリックで、そのまま実行するわけではないだろう、という楽観論がでてきた。

 共通するのは、何に怯えているのかわからないまま世界の終わりを予測し、そこから抜け出すために、同じく根拠がないまま、「実はそれほどの危機ではないのだ」と言って納得しようとするパニックの心理だ。

 いずれにしてもトランプは、言ったことのいくつかは実行するに違いない。少なくとも、日本への駐留経費増の要求などは、オール・オア・ナッシングではなく、今後の取引の対象になるだろう。だからその前に、できるだけトランプとのパイプを作って自分の立場を害さないようにリスク・ヘッジしておくしかない、ということになる。

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