1月1日、「新年の辞」を演説する金正恩党委員長。自己批判の言葉も飛び出した (c)AFP=時事

 金正恩(キム・ジョンウン)党委員長の今年の「新年の辞」で特徴的だったのは、韓国の朴槿恵(パク・クネ)政権への非難を前面に押し出し、韓国への政治介入の姿勢を明確にしたことだ。一方、次期トランプ政権に平和協定の締結などを呼びかける可能性があるのではと思ったが、そういう具体的な政策提案はなかった。これは、北朝鮮が当面は対南攻勢を優先させえる考えで、トランプ政権への対応はその政策を見極めた後にするという「先南後米」路線ではないかと思われる。従来の北朝鮮の基本姿勢は「封南通米」といわれ、韓国側の動きを封じ、米国との対話を優先する姿勢だが、昨年10月から韓国で生じている反朴槿恵政権の動きを北朝鮮も極めて重視していることの表れとみられる。

「封南通米」から「先南後米」へ

 金正恩党委員長は「南朝鮮当局は、われわれの愛国・愛族的な呼び掛けと誠意ある提案から顔を背け、対共和国制裁・圧迫と北侵戦争策動にしがみついて北南関係を最悪の局面に追い込んだ」と朴槿恵政権を批判した。
 さらに「同族対決に活路を求める朴槿恵のような反統一的な事大主義的売国勢力の蠢動を粉砕するための全民族的闘争を力強く展開すべきである」と主張し、朴槿恵大統領を呼び捨てにしただけでなく「反統一的事大主義的売国勢力」と決めつけた。新年の辞で韓国の大統領を名指しで、しかも呼び捨てにするのは異例だ。これは韓国において朴槿恵政権はすでに終わったという北朝鮮の判断を示すものだろう。「反統一的事大主義的売国勢力の蠢動を粉砕する」という表現からは、北朝鮮敵視政策を取る保守政権の誕生を阻止するという強い意志を感じる。
 金正恩党委員長は「昨年、南朝鮮では大衆的な反『政府』闘争が激しく繰り広げられ、反動的統治基盤を根底から揺るがした。南朝鮮人民の闘争史に著しい足跡を残した昨年の全民抗争は、ファッショ独裁と反人民的政策、事大主義・売国と同族対決をこととしてきた保守当局に対する積もりに積もった恨みと憤怒の爆発である」と韓国における朴槿恵大統領退陣要求運動を高く評価した。一方で「ロウソク・デモ」のような表現はなかった。

記事全文を印刷するには、会員登録が必要になります。