連載小説 Δ(デルタ)(1)
2017年4月22日

沖縄県・尖閣諸島の魚釣島と北小島、南小島 (c)時事
アメリカが日本の「センカク」を見捨てた!
何者かが巡視船「うおつり」への攻撃を開始する。
憲法9条の下にあるこの国はどう対処するべきか?
近未来の危機を描く迫真のシミュレーションノベル!
1
首相は一瞬、耳を疑った。
「アメリカが日本を見捨てる?」
「そうです。正確に言えば、日本のセンカクをアメリカは見捨てたのです」
深夜に叩き起こされたことも、理不尽としか言いようのない話の中身も、神経を逆なでするに十分だったが、何より国家の大事をまるで他人事のように話す、駐米大使のいかにも外交官らしい取り澄ました語り口に、首相はいらだちを爆発させた。
「それはどういうことなんだ!」
「ですから、ホワイトハウスは我が国との間で取り決めた、センカクに関する合意を破棄して、日米安全保障条約の適用範囲に尖閣諸島を含めるかどうか、その判断を保留する、と内々の決定を下したのです。表向きは白紙に戻しただけで結論はまだ出ていないとのことですが、大統領首席補佐官は私に向かってはっきり言われました。センカク防衛について今後アメリカからの助けは期待しないでほしいと。それも、expectとかhopeといった単語を用いず、外交の場では私自身かつて聞いたことのない、〈Don’t hold your Breath!〉という、あけすけな表現を口にされました。直訳すれば、息を殺してじっと待つこともない、要するに、待っても無駄。ウォール街出身の補佐官らしい、身もふたもない、何ともビジネスライクな言いまわしです」
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