乱数放送は以前から、北朝鮮本国から工作員への命令を伝達する重要な手段だ。写真は1977年、警視庁が押収した無線機や乱数表などのスパイ道具 (c)時事

 

 筆者が付き合った北朝鮮の秘密工作機関「偵察総局」の幹部は、「金革哲」と名乗った。

 出会いは、2014年、ある国の首都にある北朝鮮レストランだった。党宣伝扇動部の駐在員と会食していた時、この駐在員がたまたま金革哲氏の姿を見つけ、同じテーブルに呼び寄せたことで面識ができた。初対面の際、こちらが名刺を渡すと、引き換えに、携帯電話番号を紙切れに書いて渡してきた。

 報道関係者、しかも日本の記者であることを告げても、顔色1つ変えない。「今、わが共和国とあなたの国は困難な時期にあるが、これは永遠ではない。気長に付き合おう」。口から出る言葉は、目先の損得より、長期的な視点に立っているという印象だった。ただ、この時、金革哲はわざわざ「自分は北朝鮮大使館とは関係がない」と説明し、居住地は「大使館周辺」と言いながら、大使館との関わりを否定していた。

 腕には、当時の最新製品、「Apple Watch」が光っていた。スマートフォンも少なくとも3つは所持する。北朝鮮レストランにウイスキーを持ち込みながら、「これはマレーシアに出張した際に買ってきたものだ」と自慢していた。

記事全文を印刷するには、会員登録が必要になります。