連載小説 Δ(デルタ)(5)
2017年5月13日
【前回までのあらすじ】
巡視船「うおつり」船内で爆発。特警隊員の市川準一・2等保安士は、気を失っただけで難を逃れた。調理担当の先輩は殉職。耳を澄ますと、聞こえるのは中国語の会話のみで、他の乗組員は行動の自由を奪われているようだ。自分だけが人質になっていない――市川は調理室の刃物で武装した。その時、急に船内の様子があわただしくなった。
6
上空で旋回している海自の哨戒機P3Cからは、もう1時間以上錨を下ろしたかのように微動だにしない眼下の「うおつり」と、機首を下にかしげて一気に急降下していく海保のヘリがいまやほとんど重なりあって見える。ヘリは、「うおつり」のブリッジにいる乗組員と目線が合うくらいまで高度を下げているだろう。
P3C機体中央部のバブルウィンドウとコックピットの監視窓にそれぞれ張りついた武器員は依然としてビデオカメラとデジカメのズームレンズを「うおつり」に向けて撮影をつづけていたが、2人の口からほぼ同時に、「ヤバい!」と叫び声があがった。
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