「世界の工場」の象徴 東莞市のつまずき

執筆者:八ツ井琢磨2008年6月号

 四月末に閉幕した中国最大の貿易見本市「中国輸出入商品交易会(広州交易会)」でちょっとした異変が起きた。百三回目となった今回は出展ブースを前回より三割増やしたが、輸出品の成約額は二%増の三百八十二億ドルにとどまりブース当たりの成約額は二割以上落ち込んだ。 製品別では、成約額全体の三割超を占める軽工業品が前回比で微増にとどまり、玩具や事務用品、紡績糸・織物は二ケタ減。人民元高や人件費上昇などにより、付加価値の低い労働集約的な製品で「メイド・イン・チャイナ」は競争優位を失いつつある。 しかし、中国の輸出産業全体が変調をきたしているわけではない。今年一―三月期の輸出額は前年同期比二一%増。減速こそしたものの、引き続き高い伸びを維持している。今回の広州交易会でも、輸出の柱である電子・電気製品の成約額は八%増えており、IT(情報技術)関連製品を中心に中国の輸出競争力は依然高い。 問題は、淘汰の波にさらされている輸出企業を多数抱える華南地域が、いかに産業構造の転換を進めるかだ。 例えば広東省東莞市。省都の広州市と経済特区の深セン市に挟まれ、香港にも近い人口約七百万人のこの市は、輸出向け製品の受託生産が盛んで、今年一―三月期では中国の貿易黒字全体の七%を稼ぎ出した。しかし、生産コスト上昇を背景に、軽工業品などを生産する中小工場の移転や廃業が増えており、「産業空洞化」の懸念がささやかれる。

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