連載小説 Δ(デルタ)(6)

執筆者:杉山隆男2017年5月21日
沖縄県・尖閣諸島の魚釣島と北小島、南小島 (c)時事

 

【前回までのあらすじ】

武装集団に襲撃された巡視船「うおつり」の僚船「りゅうきゅう」の搭載ヘリが、ミサイルで撃墜された。直後、中国「愛国義勇軍」を名乗る集団が犯行声明をツイッターで全世界にライブ配信する。目的は尖閣諸島の奪取。アメリカからの情報がない中での、総理官邸での協議。出席した門馬聡・内閣危機管理官の口から出たのは、極秘の精鋭部隊Δ(デルタ)の名前だった。

 

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「なんか、ハンガーにかけた服が歩いてるって感じなのよね」

 文乃(ふみの)が笑いをこらえきれずに言うと、隣りでゆづみがうれしそうに、ハンガー、ハンガー、と口ずさみながら、パフェのアイスをすくっていたスプーンの柄でテーブルを叩いてリズムをとっている。

 まだ3つに届かないせいか、ゆづみの、ハンガーは、磯部(いそべ)の耳には、ふぁんがー、と舌足らずに聞こえてしまう。

「ゆづみ、お行儀悪いわよッ」

 文乃がゆづみの手もとを押さえて、とりあえずテーブルを叩くのは収まったが、代わりに今度はベンチに座った上半身を大きくバウンドさせて、体全体でリズムをとりながら、ふぁんがー、ふぁんがー、と口ずさんでいる。

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