米国民主党の大統領選挙候補者予備選挙で、バラク・オバマ上院議員がようやく勝利したようだ。もしオバマが本選挙も勝ち抜いた場合、米国の中東政策はどう変わるのだろうか。選挙戦略としての発言と、実際に大統領として実施しうる政策には隔たりがあるだろうから、現時点で有意義な予想はできない。 ここでは一部で議論になっていた「イスラーム教徒としてのオバマ」という問題について考えてみたい。選挙戦を通じて、共和党系・保守派の陣営からは、オバマの父親がムスリム(イスラーム教徒)であったという点が言及されてきた。インターネット上で、チェーンメールなどにより、「オバマは実は熱心なイスラーム教信者である」という噂が巡った。多くの保守的なアメリカ市民にとってはイスラーム教からはテロリズムがもっぱら連想されるという点を突いた中傷だろう。 道理としてはオバマがムスリムだったとしてもなんら問題はないはずで、「オバマがムスリムである」と噂することが「中傷」となってはならないはずだが、米国の文脈ではキリスト教徒以外が、そしてムスリムが大統領に当選することなど論外、というのが実態だろう。 オバマのフルネームは「バラク・フセイン・オバマ」である。オバマが二歳の時に妻と息子の元を去ったケニア人の実父が「バラク・フセイン・オバマ」という名で、それを受け継いだのだという。ミドルネームの「フセイン」を執拗に強調する嫌がらせを受けたことがあったが、そもそもファーストネームの「バラク」にしても、アラビア語のbarak(「神の祝福」を意味する)を起源とする。Barackと綴っているのはケニアで使われるスワヒリ語を介したからだろう。エジプトの大統領「ムバーラク」(「神に祝福された者」の意味)も同じ語根からくる名前である。アラビア語とヘブライ語は同じセム語族の言語であり、イスラエルの元首相で現副首相兼国防相の「バラク」も同様の意味である。

記事全文を印刷するには、会員登録が必要になります。