台湾の呉伯雄国民党主席が五月末に訪中、中国の胡錦濤共産党総書記と会談し「先易後難(易しいことから着手し、後から難しい課題に取り組む)」、すなわち「先経済・後政治」で交流を進めることで一致した。共産党中央の幹部は「当面は統一を含め政治議題を棚上げする。政治に踏み込めば台湾の馬英九総統はわが党が呑めない二つの要求を持ち出すからだ」と語る。 二つの要求とは、(1)一九八九年の天安門事件の再評価(2)両岸全人民で指導者を選出する民主投票。「いま全人民が民主投票したら共産党の下野は必至」と先の幹部が漏らすほど共産党の足腰は脆弱。馬総統の要求を呑まずともダメージが大きく、うかつに政治に踏み込めないのだ。 胡は着々と経済一体化を推進する戦略に転換。三月二十二日に馬の総統当選が決まった直後、かねて内定していた台湾を狙う短距離ミサイルや巡航ミサイルの新たな配備を停止、今後は馬政権の動きを見ながら徐々に削減する方針を政治局・党中央軍事委員会が決めた。台湾が望むWTO(世界貿易機関)加盟も、「(馬政権との)初期の交流を見届けオブザーバー参加を年内に認める」と内定した。 幹部は、胡の台湾政策は「トウ小平の原点“彼らを、これ以上遠ざけてはならない”に回帰した」という。江沢民前総書記の「文攻武嚇」から転換したのだ。陳水扁前総統の八年間を通じ、米国が台湾独立勢力の「勇み足」に厳しく対応する方向を固めたのも追い風。米国は共産党・国民党の交流を評価しており、八月十六日の中米ドミニカ共和国の大統領就任式に出席予定の馬総統に対し、米本土トランジットを認める方針。中国も「基本的に同意した」という。

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