連載小説 Δ(デルタ)(15)
2017年7月30日

沖縄県・尖閣諸島の魚釣島と北小島、南小島 (C)時事
【前回までのあらずじ】
「愛国義勇軍」の兵士・張和平にとって、親も同然の存在だった「戦闘英雄」劉成虎将軍。彼を熱烈に慕う若手将校たちは多く、張もその末席に連なっていた。ところが、劉将軍は不正撲滅に名を借りた権力闘争に巻き込まれて失脚。若手将校たちも張もその地位を失った。現体制への復讐――「愛国義勇軍」は、家族だった。
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「もう時間切れだ」
謝(シェ)のいらだたしげな声が通路に響いた。
「俺と行動をともにして軍に復帰するか、それとも死が待つ釣魚島にこのままおめおめ向かうか、2つにひとつ、究極の選択だ」
「そうか。軍に戻してやるという餌に飛びついたわけだ。そんな甘い話をよく信じたな」
冷静そのものの言い方がさらに謝のいらだちをかきたてた。
「大甘なのはおまえらだろう。本気で北の潜水艦が救出しにくると思っているのか。おまけに第39集団軍以下、東北地方の40万兵力がクーデターを起こして、瀋陽を首都に北朝鮮ならぬ北中国政府を樹立するだと? 劉連隊長の法螺話にいつまでつきあっているんだ」
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