南部の政府紙幣グレイバックスの失敗

執筆者:野口悠紀雄2017年8月10日
(C)AFP=時事

 

 南部連合も、様々な手段で戦費調達を行った。なかでも重要な意味を持っていたのは、綿花を担保とした公債「綿花債(コットンボンド)」だ。これについては、ニーアル・ファーガソン『マネーの進化史』(早川書房)で詳しく説明されている。

 ゲティスバーグなどにおける南軍の敗北にもかかわらず、公債はほぼ価値を保った。それは戦争で綿花の需要が高まったために、綿花の価格が上昇したからだ。

 ロスチャイルド家がこの公債の購入を通じて南部を助けるのではないかと考えられていた。ニューヨークでは、ロスチャイルドの代理人オーガスト・ベルモントが、民主党の全国委員長として、1860年の大統領選でエイブラハム・リンカーンの対抗馬を熱心に応援した。『シカゴ・トリビューン』紙は、「ベルモント、ロスチャイルド一族、そしてユダヤ人たちは、南部の公債を買いあさっている」と弾劾した。ベルモントは、「まもなく北部は占領されるだろう」と言った。

 しかし、結局のところ、ロスチャイルドはコットンボンドの大量購入を思いとどまった。信用リスクの点で問題があると判断したからだ。

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