まことの弱法師(17)

執筆者:徳岡孝夫2017年8月20日

 朝早くNYリバーサイドの宿舎を出て、アイドルワイルド空港へ行った。大空港である。JFK空港の名は、そのときなかった。J・F・ケネディはマサチューセッツ州から出た大統領選候補者に過ぎず、共和党のニクソン候補者に知名度で劣っていた。もちろんダラスの悲劇も、まだ先のことである。

 モホーク航空の小型旅客機は黄金色に染まった北部ニューヨーク州の上を飛び1時間ほどで着陸した。後ろのドアが開き首を突っ込んだ男が「オルバニー、オルバニー」と叫んで荷物を2つほど下ろした。乗客数人が交替し、ドアが閉まって旅客機は再び離陸した。ぶっきら棒な「空飛ぶ乗り合いバス」だった。次の着陸地がオルバニーから約200キロ、私の留学先シラキュースだった。

 着陸前に空港を一瞥して驚いた。自家用機が30機ばかり並んでいたからである。アメリカ東北部の中規模産業都市である。そこに自家用機を持っている人が、こんなにいる。

 大学院生用のサドラー寮に行くとルームメイトが待っていた。オハイオ州コロンバスから来たロス・フレミングという青年で、私より5つほど若い。「日本から電報来てるか」と問うと「まだだよ」と言う。「メシのことで相談があるんだが」と彼の方から切り出した。

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