HSBC「大衆富裕層」向けバンクの成算

執筆者:清水常貴2008年7月号

 英系のHSBC(香港上海銀行)が“小金持ち”を対象にしたプライベートバンキング(PB)を始めている。正確にはHSBCグループが世界三十八カ国・地域で展開している個人向け金融の「HSBCプレミア」で、日本でも五十店舗を予定。銀行と証券会社から二百名をスカウトし、今年一月に東京・赤坂支店と広尾支店をオープンしたのに続き、横浜、丸の内と四店舗を開設した。 プレミアの個人金融サービス本部の岩崎健マーケティングヴァイスプレジデントは「HSBCは慶応二年に横浜で銀行業務を始めて以来、日本では百四十年の歴史を誇る外国銀行だ」と強調する。「今までHSBCは法人相手の取引に偏っていましたが、今回、個人金融サービスを専門にするプレミアを始めました。対象は一千万円以上を預金したり運用したりするマス富裕層(大衆富裕層)です。当社が実施したリサーチでは首都圏と関西圏だけでマス富裕層は六百三十万人もいる。預金しても金利が低く困っている人や、年金、健康保険問題が噴出し現金で備えている人、あるいは、団塊の世代の退職が始まり数千万円の退職金を手にする人もいる。そういう人向けの金融サービスです」 通常、プライベートバンキングが対象にするのは三億円以上の現金を持つ人たちだが、プレミアは「ビジネスクラスのバンキング」だという。扱うのは普通預金や定期預金に加えて内外の投資信託、十三カ国の外貨預金。最大の丸の内支店には個室が十八室あり、訪れた客を素早く個室に案内し「リレーションシップ・マネジャー」と呼ばれる専任の担当者が顧客の要望に沿った運用アドバイスをする。間違っても客同士が顔を合わせないようにし、なんとなく大金持ちになった気分を味わわせてくれるが、果たして小金持ち相手の金融が日本で成功するだろうか。

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