暴力団の手先企業についてのデータベースをひとつにまとめれば、たしかに有効だろう。だが何事も「魂」が入らなければ――。「銀行の担当者から突然、『これ以上は融資を継続できない』と言われた。運転資金が調達できなくなれば会社を閉めるしかない」 東京・渋谷区でIT(情報技術)関連のベンチャー企業を経営する三十代の男性は、そう言って唇を噛み締めた。「暴力団と何らかの関係がある企業ではないかと疑われたようだ」 金融機関が「疑わしい企業」への融資を一斉に絞っている。きっかけは一年前に政府がまとめた「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針」。これまで暴力団対策で強調されてきたのは「不当要求の拒絶」だったが、自分のところから追い払うだけでは根本的な対策にはならず、また、不当でない(自社に有利な)取引についても機能しない。そこで指針は「一切の関係遮断」を求め、社会全体から暴力団を排除することを狙ったのだ。 昨年一年間に金融機関が警察庁に届け出た「疑わしい取引」は十五万八千件。前年比で四割近く増え、過去最多となった。「疑い」を持った時点で金融機関が融資を止める例は多い。もちろん「疑い」が正鵠を得ているケースは多いだろう。だが、「疑い」が杞憂だったにもかかわらず融資を受けられなくなったことで暴力団の資金が流れ込み、普通の企業が暴力団に資金を提供するフロント企業になってしまう皮肉な事態も生じる。運転資金に窮したベンチャー企業が資金の出し手を秘匿する投資ファンドなどに出資を仰いだところ、そのファンドに暴力団の資金が流れ込んでいたというような場合だ。

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