一昔前、外務省には「大使にとって大事なのは、第一に料理人、第二に席順、第三に夫人」というジョークがあった。外交活動にとって公邸の招宴がいかに重要かだが、これも夫人がいてこそである。 内田真美子さんは外交官だった夫の故勝久氏と約四十年間、連れ添った。「引退した今、外国での生活と人との交流が、人生に大きな膨らみを与えてくれていると感じます」と振り返る。 勝久氏は一九六一年に外務省に入省。二〇〇五年に交流協会台北事務所長(駐台湾大使に相当)を退くまで七カ国に在勤。駐イスラエル、シンガポール、カナダの大使も務めた。 パーティー、夕食会、外交団夫人のお茶会……。人脈作りや情報収集によって、社交は外交活動を末端で支える。大使夫人時代、真美子さんは毎週月曜日に公邸料理人と、その週に催す招宴の打ち合わせをした。モットーにしていたことがある。〈以前招いた人には、決して同じメニューを出さない〉〈お客の顔を頭に描きながらメニューを決める。お客の顔がわからない時は、どのようなお客なのか、好き嫌いを含め情報を集める〉〈料理に季節感を取り入れる〉 イスラエル時代、情報機関のトップを大使公邸の夕食会に招いたことがある。隠密行動で知られたこの人物が、テーブルについた時、真美子さんにささやいた。「前もって言い忘れたのですが、私はニンニクが苦手です」。真美子さん。「大丈夫です。私はあなたのことはすべてわかっています」。

記事全文を印刷するには、会員登録が必要になります。