ヤンキースタジアムをだれが壊したのか

執筆者:ブラッド・レフトン2008年7月号

「なぜ、あの廂がないんだ?」 思わずつぶやいていた。一九九七年春、取材でヤンキースタジアムを訪れた私は、迷路のような狭いトンネルを抜け、幼い頃からの夢だった神聖なるグラウンドに足を踏み入れた。その瞬間の興奮に息をのんだ後、“ベーブ・ルースが築き上げた家”のスタンドを見上げ、写真で見慣れた観客席の廂を探した。王冠を逆さにしたような形でスタンドを飾っているやつだ。 しかし、そこにはあの“象徴”はなく、平凡な張り出しが何の特徴もない線を描いているだけだった。興奮から落胆へ。今も世界チャンピオン獲得記念のロゴマークに使われている有名な廂を、いつ、だれが取り壊したのか。 それから何年も疑問にとらわれてきた私は、ある日、その謎の答えを“最も意外な場所”で発見することになった。ふるさとのセントルイスに住む叔父のモーリスの家を訪ねたときのこと。ワインセラーを見せてくれると言うので地下に降りていった。途中で、野球場にあるような木製の椅子が壁にもたせかけてあるのが目にとまった。「これは何?」と尋ねると、「ああ、別に何でもないよ」とそっけない返事。しかし、私の好奇心はその椅子から離れなかった。それを察してか、ようやく叔父は「ヤンキースタジアムのものだ」と教えてくれた。「なんでこんなもの持ってるの!?」と驚くと、叔父は「何十年か前に俺が取り壊したんだ」と、私の興奮をよそに冷静に答え、「その時の記念に送られてきたんだ」と付け加えた。

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