今年三月、東日本旅客鉄道(JR東日本)は、「グループ経営ビジョン二〇二〇」を発表した。その中に、おやっと思わせる一節がある。「将来のために戦略的に取り組む新たな事業分野の開拓」の柱として、「海外における事業の可能性に挑戦」という一文が盛り込まれていたのである。ビジョンで、こうした文言が盛り込まれたのは初めてのことだ。 国土交通省交通政策審議会鉄道部会臨時委員の家田仁・東京大学大学院工学系研究科教授(交通政策)は、「盛り込まれましたね。国内の鉄道市場が縮小するなかで、日本の優れた鉄道技術を継承発展させるには海外市場への取り組みが不可欠であることは審議会でも議論になっていました。個人的にも他の審議会のメンバーと共に、まずは目標でよいから盛り込みましょう、と働きかけていたのです」と打ち明ける。 世界の鉄道車両産業には、ボンバルディア(加)、アルストム(仏)、シーメンス(独)のビッグ3が君臨している。その競争力は、車両そのものだけでなく鉄道の運行システムも含めて売っている点にある。しかし日本メーカーには、このようなビジネス展開はなかった。 JR東日本は、独自の車両製作所を持ち、鉄道運行とものづくりの両方を熟知した鉄道事業者である。それは世界でも特異な形態だ。乗客の声を直に知り、ものづくりに反映させ、運行もする。そこに、十分な競争力が秘められていることは誰の目にも明らかだろう。具体的な事業はまだ決まっていないが、JR東日本が海外をターゲットに据えたことは、日本の鉄道車両産業のあり方を根本から変える可能性を秘めている。

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