バーミヤン東大仏天井壁画の復元作業。顔料もオリジナルと同素材を使用している(主催者提供)


 オリジナルの精細な画像データから質感、形状、素材、色彩、さらには時代的背景までをも再現する「クローン文化財」。この文化財のみで構成される世界初の展覧会が、東京藝術大学大学美術館で開催されている。

「公開」と「保存」を解決

 クローン文化財として甦ったのは、古代シルクロード各地の遺産。門外不出の『法隆寺釈迦三尊像』、焼損した『法隆寺金堂壁画』、入国が難しい北朝鮮の高句麗古墳群の『江西大墓』、非公開の『敦煌莫高窟第57窟』、流出後に第2次世界大戦で失われた『キジル石窟壁画』、イスラム原理主義勢力タリバンによって爆破されたアフガニスタン・バーミヤン東大仏天井壁画など、唯一無二の歴史的芸術的価値を持ちながらも、現存していなかったり、実物を鑑賞することができない作品ばかりだ。文化財の多くは、劣化を防ぐため非公開という処置を取らざるを得ない。しかし、公開されなければ価値を共有できずに存在意義を失い、人為的に破壊されてしまうこともある。クローン文化財は、この「保存」と「公開」という矛盾する問題を解決するものだという。
 最先端のデジタル技術と伝統的な模写技術を活かし、クローン文化財の開発に取り組んできたのは、文部科学省と科学技術振興機構が推進する「センター・オブ・イノベーションプログラム」のひとつ、東京藝術大学の「『感動』を創造する芸術と科学技術による共感覚イノベーション拠点」。中心となってこの研究を支えてきた宮廻正明(みやさこ・まさあき)東京藝術大学大学院教授は、「クローン文化財はコピーやレプリカと言われるものとは、一線を画すもの」と説明する。

記事全文を印刷するには、会員登録が必要になります。