連載小説 Δ(デルタ)(27)

執筆者:杉山隆男2017年10月21日
沖縄県・尖閣諸島の魚釣島と北小島、南小島 (C)時事

 

【前回までのあらすじ】

航空自衛隊F15の、無線による警告にもかかわらず、中国空軍のスホーイ27は領空を侵犯した。低空飛行に移ったスホーイは、「センカク」へと向かう「愛国義勇軍」のボートの近くに威嚇射撃を行って離脱。F15も現場から帰投しようとしたが、悪い知らせが届いた。那覇空港が中国旅客機のトラブルで閉鎖されたのだ。離着陸ができない――那覇のF15は、戦わずして敗れた。

 

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 戦場への道行きは誰しも無口になる。

 デルタの構成員29人中、米軍兵士に交じって本物の戦場でほんとうの戦闘を体験している自衛官は磯部1尉を含めて10名、残りの20代を中心とした若手メンバーにとっては生まれてはじめての戦場となる。だが、経験があろうがなかろうが、「道」中の頭の中は想像力が描き出す無数のシーンで満たされてしまう。実弾が頭上をかすめる空気の擦過音を何度体で感じ、毛穴という毛穴に滲みこむまで硝煙に浸り、戦闘がはじまる前の独特の静けさの中にどれほど身をおこうと、戦場への道行きに慣れるということはないのだ。いつもそのときが生まれてはじめてとなる。

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