連載小説 Δ(デルタ)(28)

執筆者:杉山隆男2017年10月28日
沖縄県・尖閣諸島の魚釣島と北小島、南小島 (C)時事

 

【前回までのあらすじ】

陸上自衛隊の秘密特殊部隊「デルタ」29名はセンカクへ赴くべく、航行中の海上自衛隊の護衛艦「かが」に向かおうとしていた。そこに飛び込んできた、中国旅客機の「事故」による那覇空港閉鎖の報道。全員が耳をそばだてた。報道は、さらに不思議なことを伝えていた。旅客機機長の所在がわからないという。「デルタ」の磯部1尉は直感した。「戦争」はすでにはじまっているのだ――。

 

     23(承前)

 着陸ミスの結果、前輪が無惨に折れ曲がった中国機は、誘導路に抜ける手前で保安設備をなぎ倒しながら芝生に機首を突っこませ、滑走路をふさぐ形で擱座している。そのまわりを赤色灯を回転させた航空局や自衛隊の放水車がとり囲み、火災や爆発などの万一の事態に備える中、乗客は緊急脱出用のシューターで機外に逃れた。おそらく機長はコックピットに副操縦士を残したまま、トイレでラフな恰好に着替え、何喰わぬ顔で脱出する乗客の列に加わったのだろう。

 キャビンアテンダントが気づいたとしても、機長の正体と任務の内容は中国を離陸する時点である程度伝えられていたはずだから、逆に、「さあ立ち止まらず、前の人につづいてください。お尻から軽くジャンプするつもりで」とシューターでの脱出をうながしたに違いない。

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