「金が中央銀行の金庫に眠る」という不思議な話

執筆者:野口悠紀雄2017年11月9日
(C)AFP=時事

 

「ゴールドラッシュがインフレーションを引き起こす」というミシェル・シュヴァリエの予測は外れた。その大きな理由は経済が成長したことであると、前回述べた。金の過剰が起きなかったのには、もう1つ理由がある。それは金の退蔵だ。

 シュヴァリエは、その可能性も考えていたのだが、退蔵が大きく増加する可能性は低いと考えていた。

 しかし実際には、1800年代の初めに、金の退蔵に関する膨大な重要が生み出された。個人ではなく、イングランド銀行やフランス銀行のような中央銀行、または財務省などによって、途方もない量の金が退蔵されたのである。

 他国への資金流出が予想外に急増した場合に、退蔵してある金が重要な防衛線となるとされた。また、新しい資本を自国に惹きつけるために、退蔵はなくてはならぬ役割を担うと考えられた。金を退蔵している国が高く評価されたのだ。

 ピーター・バーンスタインは、『ゴールド』(日本経済新聞出版社)で、つぎのように言っている。「こうして、膨大な産出量の金のほとんどは市中に出回らず、その大部分がギリシャの寺院のような巨大ビルの中で使われることもなく退蔵されていたのだ。そこでは、金の山が『金準備』というもっと立派な名前で呼ばれた」

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