小腹の幸

執筆者:阿川佐和子2017年12月10日
「おやつはピリピリとした現場の貴重なオアシスなのである」

 

 この秋から、ひょんな経緯により生まれて初めてテレビの連続ドラマ『陸王』に演技者として出演することになった。直木賞作家、池井戸潤原作のドラマである。池井戸ドラマは過去に何度もヒットを飛ばしている。だから制作側の意気込みも尋常ではない。そんな期待度の高い連ドラに、演技のシロウトが紛れ込んでよいものか……。と、そういう迷いがなかったわけではないのだが、持って生まれた覗きたい癖と、「是非是非!」と言ってくださるプロデューサーのお世辞にのぼせ上がり、つい引き受けてしまった次第である。

 しかし、いざ撮影が開始されてみると、想像をはるかに超えたハードな撮影現場が待っていた。この種の現場に慣れていないせいもあるけれど、今、どういう状況にあり、いつどこからカメラが自分を狙っているのか、どちらに身体を動かしていいのか悪いのか。「オッケー!」という高らかな声が響き渡ったら、そのシーンは終了かと思いきや、そうならないのはどうしてか。それは、カメラの位置を変えたり人物のアップを撮ったり、クレーンカメラを設置し直して上方から撮影するからだと、次第に理解するのだが、当初はわけがわからず終始オタオタするばかり。まだリハーサルだと思って気を抜いて、役所広司さんや志賀廣太郎さんの美声に「ひえー、さすが舞台俳優!」なんて酔いしれていると、突然、沈黙。顔を上げれば出演者のみならず監督以下スタッフ全員の顔がこちらを向いている。

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