連載小説 Δ(デルタ)(44)

執筆者:杉山隆男2018年2月17日
沖縄県・尖閣諸島の魚釣島と北小島、南小島 (C)時事

 

前回までのあらすじ】

巡視船「うおつり」を乗っ取り、魚釣島に上陸を果たした愛国義勇軍に見えた、わずかな隙間。そして「うおつり」での、市川の行動。官邸は、新たに「うおつり」奪還作戦を計画する。一方門馬は、総理の方針に異を唱えた田所外相のところにむかった。

 

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 凪ぎの海なのに、吹き下ろしにも似た、ゴオーッという低い唸りが遠く空から降ってくる。市川が見上げると、綿をちぎったような雲が点々と広がっている暗い夜空の2時方向に白く瞬く光が見える。一定の間隔をおいてストロボのように放たれるその白光は、雲の中にまぎれても、自分の居場所を告げるかのように薄い雲の層を漉して、内側から鋭いきらめきを発している。

 海上自衛隊の哨戒機P1の翼端についた衝突防止灯だろうと、市川には察しがついていた。センカク沖でパトロールをしているとき、上空には決まってP1やP3Cといった海自哨戒機の旋回する機影があった。OIC区画に詰めている運用や通信科、さらにブリッジで見張りに当たる保安官なら、空と海で情報を必要に応じてやりとりしながら海自と海保が互いにカバーしあっていることを任務を通じて日々実感する。組織の垣根や同族嫌悪的なライバル意識はひとまず脇に置いておいて、ともに日本の海を守る者同士としてのある種の連帯感が多少なりとも芽生えてくるのが最前線という現場だろう。

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