太田地区に広がった菜種畑と杉内清繁さん=2016年4月20日(筆者撮影、以下同)

 

 3月11日で、東京電力福島第1原子力発電所事故から8年目に入った、福島県浜通りの被災地。その1つ南相馬市では、「風評」に悩む地域の新しい産業として菜種栽培、菜種油が可能性を広げている。英国企業も注目し、地元の農家らの団体と提携した商品を世界に売り出した。未曽有の放射能災害からの再生に苦闘した人々の模索から、ようやく希望の未来図が見えてきた。

悲願だった自前の搾油所

 南相馬市郊外、常磐自動車道のインターから近い信田沢工業団地の一角。今年2月、プレハブの仮設棟に「南相馬信田沢搾油所」の看板が上げられた。東日本大震災、福島第1原発事故で避難した企業の仮設工場として無償貸与されてきた施設で、新たに借り主となったのは、農家が主体となった一般社団法人「南相馬農地再生協議会」=代表・杉内清繁さん(67)、12個人・団体=。栽培した菜種を自前で搾油し、加工販売する拠点を完成させた。

完成した念願の搾油所と(前から)奥村健郞さん、杉内さんら=2018年2月22日

 施設の中央には、丸いハンドルのある、大きなコーヒーミルのような真っ赤な搾油機が据え付けられている。四方の壁には、協議会が2014年8月から販売している食用油「油菜(ゆな)ちゃん」の品質検査や瓶詰め、ラベル貼りの機械類が並び、出荷用の段ボール箱が積まれている。「食品を扱う施設なので保健所の許可を取り、4月から本格的に稼働させたい」と言うのは、協議会メンバーの農家、奥村健郞さん(61)。杉内さんらと試験的に搾ったという、ガラス容器に入った琥珀(こはく)色の菜種油を掲げてみせた。

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