インドネシア「対中意識」激変に要注意

執筆者:井田純2008年8月号

あらゆる分野で拡大する中国のプレゼンスに、かつての「禁中」は薄れた。天然ガスなどの資源を依存する日本にも影響は大きい――。[ジャカルタ発]三月の中国政府によるチベット騒乱弾圧を受け、北京五輪の聖火リレーが世界各地で激しい抗議にさらされたことは記憶に新しい。しかし、四月二十二日にジャカルタで行なわれた聖火リレーのルート沿いには、中国を非難するプラカードもなく、欧州で起きたようなランナーへの妨害も皆無だった。一般市民の立ち入りを禁じ、競技施設の敷地内で、関係者だけを招いて行なわれたからだ。 インドネシア側の当局者は、「中国の要請を受け、混乱を避けるためにコースを変更した」と説明した。同様に、競技施設内での聖火リレーを行なったのは、中国の長年の友好国パキスタンぐらいのもの。インドネシア側の「気遣い」をうかがわせたこの関係者限定のイベントは、近年の中国・インドネシア関係緊密化を象徴する光景でもあった。 インドネシアでは、一九六五年、共産党系軍人のクーデター未遂とされる九・三〇事件で、初代のスカルノ大統領が失脚。この事件を機に実権を握ったスハルト将軍が共産勢力を徹底的に弾圧し、多くの中国系住民が犠牲となった。中国との国交は六七年に凍結され、中国語出版物の持ち込み・刊行の禁止、儒教信仰を含む中国の文化・習慣の非合法化など、厳しい締め付けが行なわれた。

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