第1回「プリマコフ読会」には、プーチン大統領(左端)も出席した。プリマコフ元首相の孫エフゲニー氏(右から2人目)と握手 (C)EPA=時事

 

 2015年に亡くなったエフゲニー・プリマコフ元ロシア首相は、生前は旧ソ連邦の中東政策のエキスパートだった。東洋学研究所やIMEMO(世界経済国際関係研究所)の所長も歴任した。

 彼の生前に私は1度だけロシア経済について肉声を聞く機会があった。彼は晩年の一時期にロシア商工会議所の会頭職についていたことがある。学者、行政官、そして政治家であった彼が、なぜ商工会議所のトップに、という疑問があったが、旧ソ連邦崩壊後にあってもオリガーヒと呼ばれた特殊権益の保有者を除けば、自立的な産業基盤を作り上げた民間企業経営者が極端に少ないロシア経済界において、プリマコフが埋めねばならない空間があったということだろう。

 ロシア経済の問題点について整然と述べた後、「政策」という課題に移ったとき、民力休養策の1つとして「官憲による検査の抑制」に言及し、彼は片目をつむって見せた。

 これはロシア社会に根強い官憲勢力による民間事業者の圧迫の手控えを意味する。食品衛生や防火のための諸規制は社会的規制に属するもので、この面における監視強化となれば、民間事業者は正面から対応策を打ち出さねばならず、経費を要する。また裏面から手を回すとなれば「工作費」を要求されるだろう。民力休養が待ったなしの課題となる不況時には、当該の役人が職務遂行体制に入らないようにすることが手始めだ、と言うのだ。

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