麻生太郎は身体を乗り出すようにして福田康夫の顔をのぞきこんだ。「ところで、ナカガワ・シュウチョクはどうするんです?」「………」「はずすんですか?」「そ、そんな。ずいぶんストレートな言い方ですな」 八月一日昼前。内閣改造直前に総理公邸で向かい合った福田首相と麻生。昨秋の自民党総裁選で争った二人だ。福田は思いつめていた。かなり前から改造人事の成否は「麻生幹事長」にあると考えていた。なんとしても麻生を口説き落とす、と決意していた。麻生が断るようなら、改造そのものを断念してもいい、とさえ考えていた。改造するのかしないのか。煮え切らない福田に自民党内でさえ決断力不足を嘆く向きもあった。「決まるまでは白紙です」という福田のセリフは、実は正直に心境を吐露したものだったのである。「麻生幹事長が決まるまでは白紙」だったのである。七月中旬、夏休みと称して東京・芝のプリンスホテルタワーに滞在した福田は、ホテルから一歩も出ずに人事構想を練った。麻生の首を縦に振らせるために、人事の軸は麻生ならこういう人事をするだろうという方向を向き始めていた。 昨秋の福田政権発足時に、麻生は「経済閣僚」を打診され「政治哲学が違う」と蹴った。それまでは二人だけで酌み交わすこともなかった関係だったが、麻生は折にふれて福田に電話で、こうしたほうがいいんじゃないか、などと助言するようになった。ポスト福田への意欲を隠さない麻生だが、何もしなくとも次は順番が回ってくるほど、状況は甘くない。

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