インドネシア人介護士を「犠牲」にするな

執筆者:出井康博2008年9月号

[ジャカルタ発]「日本の介護現場では数年後、五十万人もの人手が足りなくなるというじゃないか。インドネシアは何万人でも人材を供給できる。我々にとって日本は有望なマーケットだ」 ゆうに百平米を超す広くて豪華な執務室で、インドネシア海外労働者派遣・保護庁(BNP2TKI)のジュムフル・ヒダヤット長官は、自信に満ちた表情で語った。 BNP2TKIはインドネシア人の海外への出稼ぎを統括する政府機関だ。昨年三月に大統領直属の組織としてつくられ、この八月に来日した約二百人のインドネシア人介護士・看護師の送り出しも手がけた。 そのトップから聞く言葉に筆者は耳を疑った。介護士らの送り出しに関する見通しが、日本政府のそれと余りに食い違っていたからだ。 日本とインドネシアは昨年八月、経済連携協定(EPA)を締結。この合意に基づき、当初の二年間で日本はインドネシアから六百人の介護士と四百人の看護師を受け入れることが決まった。 実施初年度となる今年は、その半分に当たる介護士三百人と看護師二百人を受け入れる予定だった。しかし、実際に確保できた人材は半数以下。厚生労働省を始めとする日本の官僚機構は、予算消化という自らの都合で早期の受け入れに固執し、現地での人材募集に十分な準備期間を取らなかった。また、日本側受け入れ施設に大きな金銭的負担を強いながら、インドネシア人への面接すら許さなかった。BNP2TKIによる選考を通りながら、コンピューターによるマッチングで振るい落とされた候補者も七十人近くに上った。うちほとんどが男性だったが、これもまた面接をしなかった弊害だ。

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