サウジのサルマン国王の去就も重要(C)AFP=時事

 

岩瀬昇 そもそもサウジアラビア(以下、サウジ)がイランを敵視する理由は何ですか。

池内恵 わかりやすく言えば、イランを抑止しているものがなくなると、イランに従わされ、屈辱的な立場に立たされるからです。「臣下の礼」ではないですけれども、中東の権力者の間の力関係に基づく上下関係というのは、やはり厳しいと思いますね。

 もともとアラビア半島は世界史の主要な諸文明・帝国の版図から見ると辺境の地で、先進文明が起こりにくいわけですが、しかしイスラーム教を生んだ。アラブ人にとってそのことが今でも国際政治の中で大きな力になっています。

 とは言え、アラブ世界がイスラーム教を押し出して世界史の中心に躍り出た7世紀以後、やはり文明の中心というのは、ダマスカスであったり、バグダッドであったりカイロであったり、アラビア半島の外の、以前の帝国の中心地でした。その意味でサウジアラビアは辺境の地で、条件がそれほど良くない政権なわけです。

 これに対してイランは、アメリカと仲が良かった1970年代までは、アメリカと一緒にインド洋世界を仕切るなんて言っていたこともあった。その頃は、サウジはまだ国際政治の地図の中では本当に小さな存在だった。サウジが今、経済だけではなく政治や安全保障について、中東のカギを握る存在になったのは、ほんの最近です。それまでは、人口が多くて、お金はないけれどもそれなりに教育を受けた中間層を多く抱えたエジプト、あるいはそれに準ずる規模のシリアとイラク、これらの国が実際には政治的にアラブ世界を指導していた。サウジはどちらかというとスポンサーのような立場で、何か紛争があると自分たちには被害が及ばないように、お金を出して、その時々の有力な勢力を支える、あるいは、伸張することが望ましくない勢力を自分で抑えるというより、ほかの有力な国に抑えてもらうということをやってきたわけですが、それが変わってきた。

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