カスピ海上にあるロシアの油田施設(C)AFP=時事

 

 筆者がテヘランに勤務していた1990年代後半、イランは盛んに「カスピ海『湖』論」を唱えていた。ソ連時代には「湖」ということで合意していたのだが、ソ連が崩壊し、カスピ海沿岸に新たに誕生したアゼルバイジャン、カザフスタンおよびトルクメニスタンが「海」論を主張していたからだ。

「海」と「湖」とで、何がどう違うのか?

「海」については国際海洋条約が存在しており、主権の及ぶ領海や排他的経済水域などが細かく規定されている。一方「湖」の場合は、国際的な協定は一切なく、関係当事国が話し合いで決める慣習になっている。

 カスピ海に面した海岸線が他国と比べると短いイランは、「海」だと認めると、自国の支配が及ぶ水域が小さくなるので「湖」論を主張し、カスピ海を5等分すべきだ、と要求していたのだ。

 カスピ海には、ロシアの「母なる川」ヴォルガ川を始め、多くの川が流れ込んでいるが、カスピ海から外へ流れ出ている川はない。カスピ海の水位は、上下することもあるが、あるレベルで保たれている。それは、流れ込む水量と降り注ぐ雨に匹敵する量の水分が蒸発しているからである。そのため、一般的な海ほどではないが、カスピ海の水は塩分を含んでいる。

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