決裂WTOで日本が演じた「ドーハの喜劇」

執筆者:一ノ口晴人2008年9月号

「極めて残念だ」とコメントした福田康夫首相は、内心ではホッとしているに違いない。七月末、世界貿易機関(WTO)の新多角的貿易交渉(ドーハ・ラウンド)がついに決裂した。決着していれば農産物の輸入自由化が義務化され、総選挙をにらんだ内閣改造で「農村シフト」を敷く必要があったからだ。超巨額のバラマキによる選挙対策もありえた。六兆円以上が費消された前回の「ウルグアイ・ラウンド対策費」の悪夢がチラついた財務省も胸をなでおろしているだろう。だが、日本が演じたドタバタ喜劇は農業改革の遅れの象徴だ。 七月二十一日からジュネーブで開かれたWTO閣僚会合は、交渉をまとめる最後のチャンスだった。今回の決裂でブッシュ政権下での決着はほぼ絶望的だ。米国の次期政権の通商戦略が固まるのに半年以上はかかるため、新ラウンドは最短で一年、長ければ二年ほど凍結される可能性が高い。それは実質的に多国間交渉時代の終焉と、自由貿易協定(FTA)など二国間交渉への本格的な移行を意味している。日本にとっては、より厳しい時代がやってくる。 交渉がまとまらず、FTAなど地域主義が台頭するのを恐れたWTOのパスカル・ラミー事務局長は、交渉五日目の二十五日に「伝家の宝刀」である調停案を提示した。農産物分野では、関税削減を例外的に小幅にとどめることができる「重要品目」の比率を「原則四%、条件付きで六%」とするという内容だったため、農業関係者には衝撃が走った。

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