本は静かなメディアである。テレビやラジオ、あるいはインターネットのように音声で語りかけてくることはない。本は足の遅いメディアでもある。新聞や雑誌、そしてインターネットのような速報性もない。しかし、他のどんなメディアよりも多くの言葉を費やして1つの世界を描き出した本は、ときに必然としか思えないような経緯をたどり、現実を動かすことがある。
2011年10月から2016年4月まで、国連安全保障理事会の「北朝鮮制裁委員会」専門家パネル委員を務めた古川勝久氏のノンフィクション『北朝鮮 核の資金源 「国連捜査」秘録』(新潮社)がまさにそうである。
国連委員として北朝鮮の制裁違反事件を捜査していた古川氏が「制裁の必要性を声高に叫ぶ日本が、制裁を実施できていない」と国際的に指摘するや、日本政府はようやく重い腰を上げた。国連制裁に対応する部署を関係省庁に新設し、制裁関連法制も一部改正したことは周知の通り。さらなる法改正に向けた検討作業は、現在も続いている。
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