パリ発成田行きの飛行機の中で、読む予定だった本を脇に置いて、映画007シリーズを五作見てしまった。初代ボンドを演じたショーン・コネリーの「ドクター・ノオ」から、ダニエル・クレイグ演じる、一番新しいボンドまでを通してみると、007シリーズにおける男女同権もここまで進んだか、と隔世の感がある。 軽妙な会話とすきのない身のこなし、天才的な語学力と社交性、運動神経、敵の裏をかく頭の切れ方、恐れを知らない強さ。「ジェームズ・ボンド」のヒーロー像を集約すると、ざっとこんな感じだろうか。確かにカッコイイとは認めるとしても、なぜ、ボンドにかかると、女性が一様に従順になり、甘ったるい上目遣いの視線で「ジェームズゥ」というようになるのか、小さい頃、不思議だった。そのくすぐったさを否定してくれたのが、最新作「カジノ・ロワイヤル」である。いつもの決め台詞で、「名前はボンド。ジェームズ・ボンド」とボンドガールに言い放つのだが、相手は「それが?」というクールな反応。不死身のはずのボンドは毒殺されかけ、ボンドガールによって、やっと一命をとりとめる。 こうした時代の変遷はありながらも、ボンドの人気は冷戦終結で衰えることもなく続いている。そのボンドの生みの親、小説家イアン・フレミングの一生を追う企画展が、現在、ロンドンの帝国戦争博物館で行なわれている(来年三月一日まで)。

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