中国が「新疆ウイグル」に悩むのはこれからだ

執筆者:藤田洋毅2008年10月号

オリンピックを機にはっきりと覚醒した少数民族の“独立”意識。遠い北京からの制御は容易なことではなく……。 中国・新疆ウイグル自治区の区都ウルムチに住む旧友と、久々に再会した。にぎやかに杯を重ね、北京オリンピックを前に相次いだテロ事件の話題になった時、彼の笑顔が急に凍った。「カシュガルやクチャなど南疆(自治区南部)一帯は物騒みたいですが、ウルムチは知り合いのみんなが安全だと断言していますね」と、平穏無事を確かめたつもりだったが、彼は困ったような顔つきになり、無言のまま何度も首を横に振って、右手を首に当てて力を込めグイッと前に引いたのだ。宴卓は一転、重苦しい沈黙に包まれた。 旧友は口をつぐんだが、別の自治区関係者や中国国務院(政府)幹部らの情報を総合すると、八月八日の五輪開幕のまさしく「前夜に」ウルムチで、ウイグル族の「保安」(民間会社派遣の警備員)一人が犠牲になるテロが発生していたのだ。 現場は、ウイグル族のみならず漢族や回族、カザフ族、タジク族など自治区に住むあらゆる民族が数百軒の屋台を出し、午後八時頃から深夜三時前後までごった返す市内最大の夜市だった。黄河路と五一路の交差するあたりだ。内部伝達された高官向け非公開文献は、保安が大きな荷物を抱えたウイグル族とみられる男に「開包検査」(鞄の開封検査)を求め「何らかの異常物を発見した瞬間、ナイフで刺された。保安は病院に運ばれたあとに死亡した。犯人は荷物を奪い返して逃走している」との内容だったという。保安の息のあるうちに経過を聴取したようだ。国務院幹部の一人は「現地当局が総合的に判断し、事件をテロと判定したのでしょう」と解説した。

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