「古墳スタジアム」の模型の間に立つ田根剛氏 撮影:筒口直弘(以下同)
 

 田根剛氏は、「エストニア国立博物館」の完成をもって、考古学的リサーチが規模を問わず建築の提案につながることを確信した。今はどのプロジェクトも、これ抜きには進められないという。

「ものの意味を深めないと、デザインが個人の想いに寄ってしまう。建築は抽象概念であり、時代を超えた産物でもあると思うので、人類の膨大な歴史を俯瞰して、その中で自分は今、何ができるかとチャレンジすることに意義を見いだしています」

建築の力を引き出す人の想い

 リサーチから設計案の完成まではどのような流れなのか。与えられた諸条件を設計に置き換える前に、まず場所や物事の意味をスタッフとともに掘り下げる。

「特にインターネットは短時間で膨大な量の情報にたどり着けます。言語の設定を変えれば、違う情報も得られます」

1つの設計案を練るにも膨大な量のリサーチを重ねている。東京オペラシティ アートギャラリーの「記憶の発掘」と名付けられた展示室

 場所の意味を掘り下げると、やるべきことが明確になり、コンセプトが生まれる。そこからようやく、この場所で何をつくるかを考え始めるが、それまでは一切、設計図を描くことはない。例えばコンペの提出期限が1カ月後でも、最初の1~2週間は「情報を集めて圧縮し、ひたすら研究する」と言う。

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