畢生の大作という言葉がある。「代表作」ではまだ足りない、生涯に一度しか書けない、渾身の一作という言葉だ。まだ50歳とはいえ、山田芳裕にとって、『へうげもの』(講談社、読みは「ひょうげもの」)はまさに畢生の大作だろう。

 主人公は美濃の戦国武将、古田佐介(のち古田織部正重然=おりべのかみしげなり、織部助重然)。織田信長、豊臣秀吉、徳川家康と3人の英傑に仕え、千利休とともに茶の湯文化を大成し、利休亡き後は天下一と称された茶人だ。

「数奇」というキーワード

山田芳裕『へうげもの』  講談社/566円

 この古田織部の生涯を描く『へうげもの』は、2つの軸を持って進む。

 1つは戦国絵巻。こちらの前半のハイライトは本能寺の変だ。この反乱の発案者が千利休で、明智光秀は共謀者だったはずの秀吉に裏切られ、天下掌握の捨て石にされたという異説をとる。

 本能寺の変が秀吉の陰謀だったという設定は、山田風太郎の『妖説太閤記』(講談社文庫)など先例もあり、そう奇想天外な発想ではない。風太郎翁は『秀吉はいつ知ったか』(ちくま文庫)というエッセイでも、いわゆる「中国大返し」の手際が良すぎることを検証している。ここに千利休の「業」を絡めたのが、『へうげもの』のオリジナリティだ。

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