「親子づれの味方」ファミレスの退潮

執筆者:一ノ口晴人2008年10月号

 初めて日本にやって来た外国人が驚くことの一つに、外食産業の質の高さがある。食べ物のおいしさや、盛り付けの美しさだけではない。店内は明るく清潔で、店員は笑顔を絶やさず礼儀正しい。そして安い。ユーロ高・円安で、特に欧州から来た人たちはランチの安さに驚く。日本の外食産業は世界最高水準と言ってよいだろう。 それは徹底的な自由競争の賜物だ。行政の余計な保護育成策がなく参入規制も設けられなかった結果、外食産業は日本では珍しく一貫して弱肉強食の「ジャングル型産業」になっている。 だが、外食産業の市場規模は十年前から五兆円も減り、現在は二十五兆円。少子高齢化が進み若年人口が減少する中で、特に経営環境が厳しいのがファミリーレストランだ。 大阪で万国博覧会が開かれた一九七〇年に登場して以来、さまざまな業界から参入が相次ぎ、食材調達、セントラルキッチン(集中調理施設)、冷凍、輸送技術などの面で創意工夫がくり返されてきた。敗者が撤退する一方で、ロイヤルやすかいらーくなどは急成長を遂げ、明暗がくっきり分かれた。 だが、ファミレス業界全体が、一九九〇年代後半からデフレ経済への対応に苦しむ。八月にすかいらーくの社長を解任された横川竟氏は人前では弱音を吐かないタイプだが、外食業界の団体である「日本フードサービス協会」の会長だった四年ほど前から「ファミレスはハレの食事の場ではなくなった」と吐露していた。家族が年に数回だけ訪れる「ハレ」の場なら、セントラルキッチンで大量生産した見栄えのいい定番メニューで充分かもしれないが、デフレ対応で低価格路線を採用し顧客が日常的に訪れるようになるとすぐに飽きられてしまう。

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