第一三共による製薬大手ランバクシー買収に続き、酒類最大手ユナイテッド・スピリッツの資本提携先としてサントリーの名が挙がるなど、日本企業のインド熱が高まり始めた今、水を差すような事件が続いている。 自動車大手タタ・モーターズが西ベンガル州のシングール地区で建設を進める新工場は、十月に発売されるインド発の超低価格車「ナノ」の生産拠点。だが、用地買収などをめぐって地元農民の反対運動がこの夏以降、激化している。 訴訟が長引くほかデモや妨害活動は日常茶飯事で、七月には建設技術者が暴行を受ける事件も発生。ラタン・タタ会長は八月末、「ナノ」の生産を他の州に移す可能性まで口にした。 同じ西ベンガル州のハルディアでは九月、「三菱化学の工場で二つの労組の組合員が激しく衝突し、生産がストップした」との誤報をインドの通信社が流した。西ベンガル州ではインド共産党左派(CPI-M)の長期政権が続くが、同州政府は国内外の大手企業の誘致に熱心で成果も上げ、評価は高い。タタへの反対運動も裏に野党の煽動があったのだが、衝撃は大きい。 九月に石毛博之経済産業審議官を団長とする代表団がインド入りし、デリーとムンバイを高速貨物鉄道で結び、沿線を開発する「産業大動脈」プロジェクトに向けた日本の官民による投資について協議した。迎えたインドの中央政府および、この大事業の地元となる六州の政府の幹部らによれば、日本企業はシングール問題に懸念を示し、今後、同様の問題が生じる可能性を確認してきた。そのため、「日本側に提供する用地の確保に問題はなく、シングールとは違う」と説得に努めたという。

記事全文を印刷するには、会員登録が必要になります。