世界金融危機で湾岸ドバイが岐路に立つ

執筆者:池内恵2008年11月号

 米国発の金融危機は、西欧や日本だけでなく、ロシア、インド、中国といった新興市場にも急速に波及している。それでは中東にはどのように影響を及ぼしているのだろうか。特に関心を引くのが、GCC(湾岸協力会議)諸国、つまりペルシア湾岸産油国の新興市場である。特にアラブ首長国連邦(UAE)、その中でも先行して発展するドバイへの影響が注目される。 ドバイ市場についての見通しは、「投資情報」として高い関心を集めるが、ここではそのような情報提供は意図していない。将来の中東政治の姿をどのようにとらえるか、という問題が筆者の主要な関心事である。中東政治の今後の展開の中で、ドバイに象徴される経済発展モデルが持続しうるか、中東地域全体にどのような影響を及ぼしていくのか。ドバイを中心とした湾岸諸国の開発ブームによって、中東の重心が、湾岸地域に決定的に移ったとする見方が広がるが、この見方はどの程度妥当性をもつのか、注視しておきたい。 開発ブームに沸く湾岸産油国を、試みに「新しい中東」と呼んでみよう。対比して、エジプト、イラク、シリア、レバノン、パレスチナ、ヨルダンといったこれまでの中東政治の中心は、「古い中東」ということになる。こちらは十九世紀末から二十世紀を通じて、産業化による経済発展と国民国家建設を目指してきた。人口が多く、文化や歴史の厚みを持ち、古くは古代文明や世界宗教を、近代においては民族主義やイスラーム主義をはじめとしたイデオロギーを生み出してきた知的発信源である。イラクを除けば産油国・資源産出国とは言えず、教育と労働による近代化の努力を試みてきた。

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