破綻したリーマン・ブラザーズのCEO(最高経営責任者)であったリチャード・ファルド氏は、腕利きトレーダー時代にはゴリラと呼ばれていた。十月三日に最大七千億ドル(約七十兆円)の不良資産を買い取る金融救済法を議決せざるを得ないほど、ある意味で追い込まれた米国下院は、公聴会にファルド氏を呼び出した。主要な論点はファルド氏の高額報酬(二〇〇〇年以降で四億八千万ドル=約四百八十億円)、リスクと損失は納税者に押し付けながら利益だけは懐にというウォール街の仕組み、そして資金の急激な枯渇による破綻への道筋と経営責任との関係の三つだったといってよい。 連邦政府、すなわち納税者が乗り出さなければ連鎖的な金融破綻を回避できないとの認識に追い込まれた米国議会での公聴会は、ウォール街の貪欲と、彼らの無能力に焦点を絞った。国民代表としてはまず標準的な仕事ぶりといってよい。しかし、溜飲を下げるだけでは金融資本市場の再設計は不可能だ。そして、もしこの再設計に失敗するようなことがあれば、米国のみならず世界に危険信号が灯ることになろう。 ウォール街を貪欲に駆り立てたものとして、膨れ上がる年金基金という世界規模の新要因を指摘せねばならない。年金基金の過大な積み上げが、世界的な信用収縮に至る発端となったのだと判断すれば、金融危機からの脱却時にも、年金拠出者、すなわち勤労者による直接的な運用指示のあり方にまで踏み込んで考えざるをえないといえよう。

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