灼熱――評伝「藤原あき」の生涯(44)
2019年4月30日
あきの義江に対する唯一の不満は、嫉妬深いことだった。
道のすれ違いざまにあきが他の男性をふいに振り向いたりするだけで機嫌が悪くなり、
「あの男とは知り合いなのか」
と詰問調で言う。
あきが初恋の島津氏の話を打ち明け、毎月の墓参は欠かさないというと、
「それはとても清くまるで詩のような恋だと思う。ただ、死んでしまった人だと思っても、あなたがお墓まいりをしていることは僕にとっては非常に嫌な気持ちになるので、もう墓参はやめてくれないか」
あきはそれ以降、島津家の墓には二度と足を踏み入れなかった。
義江は「自分がお盛んなほど嫉妬深い男」の典型なのかもしれない。
義江は軽井沢で友人の松平から、学習院に通っている有名な華族令嬢を紹介された。名は雪子と言いまだ幼い表情が残る少女だ。
雪子が日に日に惹かれていくのが義江には手に取るようにわかった。
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