ルーヴルを「売り物」にする館長ロワレットの野心

執筆者:アダム・セージ2008年11月号

[パリ発]その日、ルーヴル美術館内にある皇帝ナポレオン三世の豪華な居室に、新たなコレクションが加わろうとしていた。二千六百三十四個のダイヤモンドをあしらった「ウジェニーのブローチ」――十九世紀半ば、皇后が身に着けたとされる逸品だ。ルーヴルはこれをニューヨークで六百七十二万ユーロ(約九億円)で購入。それを可能にした寄付者たちの間を回り、にこやかに握手を求めて感謝を表していた人物がいる。 世界一有名な美術館の顔、アンリ・ロワレット館長(五六)。パリの裕福な弁護士の家に生まれ、学芸員国家試験にトップ合格後、パリのオルセー美術館に就職(公務員)。その後、四十二歳のとき、国立美術館の館長としては異例の若さでオルセーの館長に抜擢され、六年後の二〇〇一年にルーヴル美術館館長に就任した。 十九世紀の作品を専門とし、ことにドガの研究で知られるロワレットは、学芸員として常に傑出した存在だった。フランス美術界広しといえども、彼ほど頭脳明晰で親しみやすく、かつビジネスセンスと経営手腕を兼ね備えた人物は多くない。 一方で、これほど毀誉褒貶の多い人物も珍しい。ロワレットは館長就任以来、八百年の歴史を誇る元王宮ルーヴルの変革を推し進め、新たな客を呼ぶことに努めてきた。その費用を捻出すべく、世界を相手に収益獲得に奔走する彼を、「先見の明がある」と称える声がある一方、比類なきコレクションをマネーゲームの駒として利用する「危険なポピュリスト」だと非難する声もある。

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