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 4月12日、香港で粤劇(えつげき=広東オペラ)の新作『粤劇特朗普』が上演された。千秋楽の15日にはイギリスの『BBC』、アメリカの『CNN』、さらにロシアの通信社などの外国メディアが取材に訪れている。粤劇を研究する友人は、「劇場ロビーには『全院満座(満員御礼)』の札が下がり、粤劇公演では珍しい若者や外国人が客席に多く見られた」と伝えてくれた。

 もちろん、タイトルの「特朗普」は「トランプ」の漢字音訳。主役はドナルド・トランプ米大統領である。

 2014年の秋から初冬にかけて民主化を求めて香港の街頭を占拠した「雨傘革命」以来、政治から芸術まで、北京の中央政府による締め付けは強まるばかり。一強独裁体制の習近平政権による強権政治はとどまるところを知らない。1997年の香港返還時に中国政府が内外に向けて約束した「一国両制」の下での「高度な自治」などすでに有名無実である――こう民主派が強く訴える香港で、粤劇の舞台の上に描き出される絵空事の世界とは言うものの、トランプ大統領にどのような役回りを演じさせようというのか。

『粤劇特朗普』の物語は愛憎半ばする米中関係を主旋律に、文革を遠景に配し、虚と実、空想と史実を微妙に織り交ぜながら展開される。

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