正念場の「三農問題」しかし抵抗勢力は強く

執筆者:新田賢吾2008年11月号

 胡錦濤政権が発足当初から重視してきた農業、農村、農民の「三農問題」が正念場を迎えている。 トウ小平氏が今日の中国の発展につながる「改革開放」政策をスタートさせた一九七八年の第十一期党中央委員会第三回全体会議(三中全会)は農業改革が重要テーマだったが、それから三十年目にあたる今年の三中全会も農業に焦点をあてた。だが、折からの世界金融危機で、「農業を議論している状況ではない」との反対意見が続出、農業改革を大胆に進めることはできなかったからだ。「三農問題」は中国の沿海部と内陸部、都市部と農村部の経済格差そのものであり、胡政権は格差是正の切り札を農業改革に置いていた。だが、改革の柱には農村の土地所有の問題があり、沿海の都市部で不動産開発をするデベロッパーやその背後にいる地元政府、土地を高値で売却したい住民などの抵抗が強かった。 農村の土地所有問題とは、地元政府や国有企業が農民から安く土地を買い上げ、転売したり、自社工場の拡張にあて暴利を得ていることだ。都市部では土地は使用権を持つ個人が転売する権利やそれに伴って得る売却益を享受できる。だが、農村では地元政府が時価とはかけ離れた安値で強制的に農民の土地を収用できてしまう。この五、六年農村で起きている暴動の半分以上は土地収用がらみといわれるのはそのためだ。農民に都市住民並みの土地使用権が認められれば、デベロッパーの土地取得コストが高騰し、外資企業の進出も停滞する懸念がある。成長か、農民か、という二律背反に胡政権は直面している。

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